東京地方裁判所 昭和56年(ワ)5033号 判決
請求の原因1ないし3は当事者間に争いがなく、また、同5についても、別紙物件目録添付図面の(11)の部分を「弾性枠片」と呼称することが適当か否か及びその上面が「一連になだらかに」傾斜していると説明するのが適当か否かを別とすれば、当事者間に争いがない。
右二点の表現の適否はさておき、本件考案における弾性枠片が、内側にスイツチ版の厚みに略相当した突部が環設されており、また、該突部の下方に底板の端部を受け入れる段部が凹入して形成されているのに対し、原告が被告製品における弾性枠片であると主張する右部分は、これらに相当する突部も段部も形成されていないことは、原告の自認するところである。したがつて、被告製品が本件考案とは右の点において構成を異にするものであることが明らかである。
原告は、右の相違点は設計上の微差にすぎず、また、本件考案における右の構成は付加的構成にすぎない旨主張するが、前記争いのない本件明細書の実用新案登録請求の範囲の記載によれば、本件考案における弾性枠片に前記突部及び段部が形成されるべきことは、明確に記載されており、二義的に解釈することをえないものと認められるから、これらの構成は本件考案における弾性枠片に欠くことのできない要件であつて、前記相違点をもつて設計上の微差であるとか付加的構成であると主張することは、本来許されないものというべきである。のみならず、成立に争いのない甲第二号証(本件実用新案公報、別添実用新案公報と同じ。)によれば、本件明細書の考案の詳細な説明の欄には、「スイツチ版1はその厚みに略相当した突部11内に安定状態に位置せしめられ、該突部11上に被覆板2を支持接着させると共にその底板4はこのスイツチ版1周側に対する衝合面より大きく弾性枠片3の底面に凹入して形成された段部12において接着剤の如きにより一体的に組付け結合されたものであつて周側が弾性枠片2で完全に包容されたものであるから弾性枠片3に対して広い接合面で接着して全体が完全に一体化し、強固な接着関係を形成して通行者の靴その他による踏圧によつて破損することがなく、(中略)平坦面上に単に設置しても耐用性の高い製品を得しめるものであるから実用上製作上その効果の大きい考案である。」という記載が存する(公報4欄4ないし18行)ことが認められ、右記載によれば、前記突部及び段部は、いずれも強固な接着関係を形成するという重要な作用効果を奏するための構成として設けられるものであることが明らかであるから、原告の右主張は採用しない。
なお、原告は、右の接着関係に関連して、近時強力な接着剤が開発されその効能が著しく進歩していることを挙げて、種々論じているが、接着関係を強固にするため、接着面を広くかつ凹凸の多いものとして組み合わせるか、一体成形構造とするか、単に強力な接着剤を使用するにとどめるかは、まさに、それぞれ別個の技術思想というべきであつて、そのことは、出願後に接着剤が強力になつたことによつて左右されることではないというべきである。
以上のとおりであるから、その余の点について対比するまでもなく、被告製品は本件考案の技術的範囲に属するものとは認められない。
よつて、その余の点について判断するまでもなく、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却する。
〔編註その一〕本件における請求原因は左のとおりである。
1 原告は、昭和五五年四月一日、訴外有限会社マルヨシゴム工業との間で、同社の有する次の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という。)について範囲を全部とする専用実施権設定契約を締結し、同年九月二六日、その旨の登録を経由した。(中略)
2 本件考案の登録出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の実用新案登録請求の範囲の記載は次のとおりである。
「スイツチ版を底板と上面に清掃面を形成した被覆板の間に挟み、このものの周囲を合成樹脂又はゴム質のような資材で形成され上面を内側が高く外周部が次第に低くなるように一連に傾斜させた弾性枠片で囲み、該弾性枠片の内側には前記被覆板の周側に対する衝合面より下部に前記スイツチ板の厚みに略相当した突部を環設し、該突部の下方には前記底板の端部を受入れる段部を上記した衝合面より大きく凹入して形成し、これに該底板を嵌合接着させた自動ドア用マツト。」
3 本件考案の構成要件を分説すれば次のとおりである。
A スイツチ版を底板と上面に清掃面を形成した被覆板の間に挟み
B このものの周囲を、合成樹脂又はゴム質のような資材で形成され上面を内側が高く外周部が次第に低くなるように一連に傾斜させた弾性枠片で囲み
C 該弾性枠片の内側には前記被覆板の周側に対する衝合面より下部に前記スイツチ版の厚みに略相当した突部を環設し
D 該突部の下方には前記底板の端部を受け入れる段部を前記した衝合面より大きく凹入して形成し
E これに該底板を嵌合接着させた自動ドア用マツト
〔編註その二〕本件と同趣旨の判例として次のものがある。
昭和五七年一〇月二九日東地民二九判・昭和五五年(ワ)一二四三六号